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救急医の横顔

大げさに表現すると、土田拓見先生は幼稚園児の頃から漠然と救急医に憧れていたという。走りゆく消防車や救急車を見ながら人を助ける仕事をしたいと思ったのがきっかけ。男の子なら普通、サッカー選手とかプロ野球選手、電車の運転士とかを夢描くところだが、土田先生は違っていた。その思いが叶い、今春から北大で救急医として現場に立つ。医者になって4年目。そんな土田先生に救急の魅力を聞いた。

幅広く救急患者を診るためにあえて地方の基幹病院で初期臨床研修

土田先生の写真

土田先生の救急医への道は早くから決まっていた。が、あえて近道を取らず医者になって4年目の今春(2017年)、救急を専門とするために北大病院に入局した。
それには訳があった。土田先生はこう説明する。
「救急医になることは決めていたのですけど。医者としていろんなものを吸収したいと思って、内科を一年勉強させてもらいました」
土田先生は道北の基幹病院の一つ、旭川赤十字病院で初期臨床研修を受け、研修後も1年間、救急医になるために神経内科で研鑽を積んだ。初期臨床研修先をあえて母校の北大ではなく、旭川にしたのか。それには土田先生なりの考えがあってのことだった。
土田先生は言う。「基礎もわかっていなくて専門的なことは当時、僕の能力では理解しきれないと思いました。最初は幅広く診られる救急科のある病院、しかも1次から3次までの、歩いて来る人から心拍停止の患者さんまで運ばれて来る病院を考えたのです」
そのために学生時代から救急に力を入れている地方の基幹病院を見学して回ったという。旭川赤十字病院が土田先生には一番バランスが取れているように映り、ドクターヘリの基地病院にも指定されていたことも魅力に感じて選んだのだった。
土田先生は話を続ける。「2年間の初期臨床研修だけだと僕には足りなかった。医者になってからじゃないとわからないことが結構、あるんですよね。医学部に入って勉強して知識はもちろんそれなりに学んできたつもりだったんですけど、それは患者さんからもらったものでもないし、本とか問題集で勉強していたもの。その知識を患者さんに当てはめていくという作業は、やっぱり教科書通りにはいかないし、難しい。自分の思う通りにいかない。しかもそれだけではなくて、患者さんの一緒に住んでいる家族とか、どういう介護を受けているとか、どういう施設にいるとか。医学というよりも医療の観点でみると社会的な背景というのも大事になってくるのです。なかなかそういうのは短い時間で全部、僕は学びきれなかった。だからもう少し時間が必要でした」。
だからこそ土田先生は救急を専門にやるために同病院に残り、さらに1年間内科で研鑽を積むことにしたというのだ。建築と同じで基礎を大事にして、医者としての基盤を自分なりに満足行くまで固めていきたかったそうだ。「医者としていろんなものを吸収したいという強い思いから内科で勉強させてもらった」と土田先生。しかし周りの同期は研修を終えるとすぐに自分の進むべき専門の医局に入局していく。「その中でもう一年内科をやるというのは、勇気がいりました」と土田先生は苦笑いする。

初期臨床研修中は、救急を見据えた医療のあり方を習得しようと努めていたという。
「僕はいろんな科にも興味があって一生懸命にやってきました。救急という科はいろんな科の勉強をしていないとできないんですよね、救急の疾患といっても内科的な、例えば糖尿病が悪くなった人が来たとか、動脈の病気だとか、脳の病気ももちろん。あとは交通事故での外傷だとかで手術の必要だってあります。いろんな幅広い知識がないと救急はできないので、そういう目でいろんな科を回って来ました。」
根っからの救急好きは、実は幼稚園の頃から芽生えていたという。その頃の夢は消防士か救命救急士。困っている人の現場に行って助けたいという思いからだったそうだ。小学生になると当然のことながら自分のことを考えられるようになっていく。そうした過程で救急医への憧れが強くなった。
土田先生は「消防士とか救命士とか当時はまだ魅力があったのですけど、最終的に病院に運ばれてきて、患者さんの命を誰が責任を持って判断してマネージメントしているかといったら医者。とくに救急車で運ばれて来たら救急医の出番となる。そこを目指したいなと思ったんですよね」と思い返す。

印象に残る症例は、救えたかも知れない交通事故死の患者

土田先生は救急に入局してまだ日が浅いこともあるが、印象に残る症例として研修医時代の経験で、交通事故で亡くなった患者をあげた。
「うまくいった例も印象に残るのですが、一番印象に残ったのは高齢の女性で、夜に車にはねられて運ばれてきた患者さんです」と話し始める。
救急搬送された直後は意識もあり、元気そうだったという。「痛い痛い。早く治してくれ」とか、医者の質問に「分かりました」と普通に会話ができていた。
当時、いろんな検査をして「まあ、大丈夫じゃないか」ということで経過観察をしていた。すると一時間半くらいすると、急激に意識レベルが低下し、ショック状態に陥ってしまった。土田先生はこう説明する。
「骨折とかもあり、出血が広がっていったのかも知れません。」
医師たちの懸命な治療にもかかわらず、その女性の意識はそのまま戻ることはなく息を引き取った。
「何もできなかった。もしかしたら、適切な判断ができていれば助かったのかもしれない。助けなくてはいけなかったと思います。」と土田先生は無念そうな顔をする。まだ、1年目の研修医。自分では何も判断もできず、先輩医師の治療を見守る術しかなかった。
「今だったらもう少し患者さんのためにできた判断とか処置があったんだなと思います。でも、今でも自分では対処できない、もう少し状態の難しい患者さんが来ることもあるだろうし、その時に『あの患者さんは、今だったら助けられたのでは』と5年ぐらい経った時に思う日が来る。その繰り返しなのかもしれません」と謙虚に土田先生は自らを律する。
医師の勉強不足とか未熟な手技で患者さんの命を救えないことはすごく失礼だし、あってはならないこと。いたって真面目な面持ちで土田先生は「だからこそ日々勉強して医療の研鑽を積んでいかないといけないんですよね」と言葉に力を込める。
救えたかもしれないという患者への思いは、戒めとして土田先生の心に刻まれている。

救急の面白さは診断と処置を同時に行うところ

土田先生に憧れの救急医になっての印象をお聞きすると開口一番「面白いし、楽しい」という言葉が返ってきた。中でも診断と処置を同時並行で行うところに醍醐味を感じている。
土田先生は話を続ける。「それが一番好きなんですよね、自分は。治しながらやっていかなくてはならない。患者さんが亡くならないように、重症にならないようにしながら、同時に頭を使った判断をしなくてはならない。結構、訓練しないとできないことなんですよね。プロの仕事はどの仕事でも同じで、訓練を積まないとできないと思うんですけど、その研鑽を今、積んでいるところです」。
そして救急医を選んで良かった、やっていて面白いと思うことは、一日一日で患者さんの状態がめまぐるしく変わっていくものの「やっぱり、そうですね、重症だった患者さんがよくなっていくことが実感できることです」。
レベルの高い先輩医師に囲まれ、その医師たちがカンファレンスで知恵を出し合って、一人の患者のために尽力を尽くす。「その中に居られるというのは恵まれた環境だと思います」と土田先生は笑顔で話す。
救急医としてのポリシーも先輩医師からしっかり受け継いでいるようだ。それは自分の家族とか、自分の大切な人がかかりたいと思うような医者になること。そしてそれを常に目指してやっていくことだという。土田先生は「それが一番です」と目を輝かせる。
そしてどんな環境でもそれに左右されることなく自分のやるべきことをやっていく医師になりたいという。特に救急医にはそれが大事な素質だという。救急医は命が切羽詰まっている状況でリーダーになる医師のため、そこで看護師とか研修医とかに対して怒るとミスが起こりやすくもなる。第一、患者さんにとって良くないことでもある。
「どんな時でも余裕のある医者になりたいですね」と付け加えた。

救急医にとって見極めと勘が大事

医学生時代には身につかないものが、経験に裏付けられた勘。特に救急医に必要なのが第六感なのかもしれない。
土田先生は「この人は大丈夫という診断からの予想がつけばそれでいいのですが、今は元気そうに見えるけど、何かおかしいだとか、一晩だけでも入院させて様子を診た方がいいという判断は、多分、数を診ないとできないと思いますね」と話す。
その見極めと勘を磨くために必要なことは、もちろん臨床経験の数を積むことだが、土田先生は患者の容態の些細な変化を見逃さずに、考えることも大事だという。
「ある一人の患者さんが、おしっこの量が減ってきたとか、意識レベルがちょっとおかしいとかの些細な変化が何で起きているのかなということを考え続けていれば、そういう判断(見極め)とかがうまく出来てくると思うんですよね。感(勘)が養われるというか。そのためには患者さんの状態を見守り続けるしかないでしょうね。自分はまだまだだと思いますけど」

救急医を目指す医学生、研修医へのメッセージ

インタビューの最後、土田先生に救急医を目指す医学生らにメッセージをお願いした。
「忙しいというイメージがあると思いますが、忙しいからこそやりがいがあると思います。どの診療科に行っても、自分で勉強したりとかして努力している人は忙しいと思います。だから辛そうだからとか、忙しそうだからと決めて欲しくはないですね。単純に自分のやりたいところに行ってもらいたいと思いますが、救急をやりたいと思ってくれている人が来れば大歓迎。でもそうじゃなくて、例えば呼吸器内科医になりたいだとか、精神科医になりたいだとかいろんな目標があるとは思います。でも呼吸器内科になりたいと思う人でも、重症肺炎などで命に関わるような時に、人工呼吸器を使わなくてはいけない状態に立たされることだってあります。精神科だって精神科疾患で自殺したり、自分で灯油をつけて広範囲熱傷を負ったりとか、、、。いろんな診療科はありますけど、どの科も救急とは切り離せないと思うんですよね。だから救急医にならなくてもいいですけど、救急疾患に興味を持って欲しいです。そのために短期間でも研修に来てくれて、勉強してくれると僕は嬉しいですよね」